外なる聖域

 

2023月 5月13日(土)蕨市中央公民館1階講座会議室

地に足を着けなおす 15:10〜 

医療従事者クラス・エーテル塾 11:00〜

舞扇・仙骨尺などグッズをお忘れなく。

*********************************************************************

今回の旅が、

こうした日々になることを私は何処かで気づいていた。

コロナの報道が始まり、その3月に甥と一緒に訪れる予定だったヒマラヤ旅。

急遽、中止したけれど、こんなに長くなるならば強行すればよかったと何回も後悔した。

 

年に2回のヒマラヤ旅。

外へと向かうエネルギーは行き先をなくし、

内へと向かうしかなくなった。

コロナ禍の内なるエネルギー開発は

「立ち止まる」

ことを教えてくれた。

そして、立ち止まらなけば大切なことを見逃してしまうことも。

 

 

今回のアッパームスタンは初めて仲間と一緒の旅になった。

いつもは道を切り開いてくれるbirさんがいるので、

私は安心して自由気ままにエネルギーの世界を泳ぎまわった。

現代社会が並行して流れている中、

想像を超えた世界のヴェールがどんどん開かれていく冒険は、

私の細胞を活性化させ、

エネルギーが湧き上がるのを感じた。

 

そして、ついに見つけた私の聖域がガリゴンパだった。

ガリゴンパこそが私のエネルギー源だったとも言える。

毎晩ネズミと格闘しても、

極寒で顔を洗うことがなくても、

そんなことは何でもなかった。

二時過ぎに目を覚まして木をくり抜いた梯子を上がって屋上に出れば、

円球となった星々の奏でる音を聴くことができた。

その音を頼りにさらにその向こう側に広がる。

 

日が昇れば、食堂でラマさんが手渡してくれる白湯を飲み、

お堂を開けてもらった途端に、すっぽりとお堂のエネルギーに包まれた。

昼でも真っ暗なお堂は、私には胎内に戻ったように安心できる空間であり、

たくさんの教えを受ける場所となった。

どれくらいの時間そこで過ごさせてもらったのだろう。

ポツンと山の中にあるゴンパを訪れる人も多くはなく、

たまに、下の村から馬をひいて村人が作物を持ってやってくると、

その民族衣装の色合いが砂色の世界に彩りとなって、

自分がここに生きていることを再確認させてくれる。

 

静かで、鎧をつける必要のない時間が流れた。

縦横無尽にエネルギーの世界が広がる。

夕方、ラマさんの弟さんがお供えのお水とバターランプを下げる音を合図に、

お堂から出て、食堂に入る。

唯一、火がある場所。

糞を燃料にしたストーブはバターランプのバターを溶かしたり、

お湯を沸かしたり、お料理を作ったり、

何一つ無駄がない。

小さな灯りが一つ灯る中、

お湯の沸く音

ダルスープを混ぜる音

バターランプを磨く音

近くの小川の流れる音

ネズミがカサカサと動き回る音

そうした、普段だったら聞き逃してしまう音が

一つ一つ刻み込まれていく、

長い長い夜の始まり。

簡素だけれど味わい深いお夕食が終わって、

お白湯をいただく。

ラマさんのちょっとザラッとしているけれど温かい声が

その空間に吸い込まれていく。

八時過ぎには、自分の部屋に戻って歯を磨く。

真っ暗なので、部屋を出る時には頭にはヘッドライトをつける。

うがいをするのも、トイレに行くのも慎重に。

 

滞在する間、お堂の上の経典部屋が私の部屋となる。

窓辺に作った寝袋のベッドから空を見上げると、

自分が誰なのかもわからなくなってくる。

自分を確認する必要もここではない。

ネズミがおとなしいうちに、眠り始める。

暫くすれば、すぐに起こされるから。

彼方の存在の時間が終わり、

私が行動を許される時間が始まり、

屋上へと向かう。

 

こうした静かな繰り返しが

渇いて縮こまった部分を潤し、

「私」から離れさせてくれた。

人生の中でなくてはならない時間。

 

 

だから、こうした時間がなくなることを信じたくなかった。

 

 

5年ぶりのアッパームスタンは、

当たり前に変化していた。

ゾクゾクしながら通った危険な道は舗装され、

骨笛を買った店の足の悪いご主人は亡くなっていた。

新らしい宿が出来、

いつも立ち寄る食堂には子ども産まれ、もう走り回っている。

それでも、宿のご主人も食堂の女将さんも

「久しぶりだね」

と笑顔で迎えてくれる。

内臓から微笑んでしまうほどの嬉しい再会。

 

予想外の出来事がたくさんあって、

旅の予定は変更になり、

ガリゴンパに滞在できるかどうかも危ぶまれたけれど、

どうにか、予定の日にガリゴンパに到着した。

でも、様子が違う。

いつも車を止めていた場所へと続く道はなくなり、

新しいゲートへと道が続く。

人影を感じることがなかったその場所には、

大勢の人が行き交っている。

戸惑う中、いつもの部屋に上がろうとすると工事中で上がれない。

ようやくラマさんを見つけて、

その笑顔とザラッとした温かい声に、

握手したカサッとした手の温かさに安心する。

「お堂は工事中なので、泊まる部屋を新しく用意したよ」

連れて行ってくれた部屋は前室にベッドが3つ。

その奥に2つのベッドがある新しい建物。

こんなに沢山の人たちが滞在しているのに、

ベッドが5つもある部屋。

感謝より申し訳なさでいっぱいになる。

ちょうどお昼時、

新たな食堂に案内される。

ホテルの食堂と同じくらい広い食堂。

ストーブには、糞ではなく枝。

ダルバートのお皿には、レストランの様に品数がある。

 

お堂に入る。

壁画の修復作業の最中。

ここのお堂の床は、長年のバターランプや蝋燭、埃などで、

靴下が真っ黒になるけれど、

それもまた味わい。

絵師の足元はスニーカー、そのまま祭壇の中へ。

修復作業は1日のうちどのくらいかかるのか聞くと、

お昼休み以外は続くとのこと。

休憩を取りに出て行った。

床に置かれた作業道具。

祭壇の中に置かれた梯子。

 

「私、ここに滞在せずに帰ります」

口から言葉が自然に流れた。

 

そして、二度と訪れることはないかもしれないという予感がして、

「お別れをするので、少し時間をください」

と、一人にしてもらう。

今回は、今までのお礼の旅だとわかっていた。

ガリゴンパともお別れという現実に、

大人になってこんなに声をあげて泣いたことがあったかしら、

と自分でも驚くほどエンエン泣いた。

 

「聖域は外にはないよ。

あなたの背中を押してあげよう。

こうでもしなければ、あなたはまた来るでしょう?」

 

そして、最後に新しいエネルギー領域を開いてくれた。

もう、ここに来なくて良いように。

 

黒くなって水を吸い込まなくなっている床に、

ポタポタ涙が落ちていく。

エンエン泣く私に驚いた人たちが入ってこられない気配がする。

ヒクヒク言いながら、

言い尽くせない感謝とお別れを告げる。

グズグズと何回も何回も。

 

数日経った今でも、

こうして書いていても涙が溢れてくる。

朝起きると目が腫れている日々。

繋いだ手の指が一本一本離れるように。

別れのプロセスの糸がゆっくりと離れる優しい日々。

 

外なる聖域を閉じる旅

 

数年後には、このアッパームスタンに中国からの高速道路が通るそうです。

静謐なるアッパームスタンを最後に味わえた幸運に感謝します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラススケジュール

http://blueprintjapan.com/archives/info/057

 

 

 

 

 

team0x's blogより転載